【08.10.31】村上優子さん、大阪高裁が10月30日、公務災害と認定する判決を受け-労働の過重性に言及-

看護師の労働環境の改善を

 国立循環器病センター(大阪府吹田市)の看護師だった村上優子さん(当時25歳)のくも膜下出血による死亡について、大阪高裁が10月30日、公務災害と認定する判決を下した。高裁は、村上さんの時間外労働を月50-60時間と算定。これは、過労死の「認定基準」を下回る“数字”だ。しかし高裁は、「過労死認定の判断は、時間外労働時間の量のみに基づくのは相当ではなく、その量に併せ、業務の質的な面を加味して総合的に判断する必要がある」と、労働の質的な過重性について踏み込んだ見解を示した。社会問題化している過労死が、減るどころか増えている現状にあって、今回の判決は大きな意義を持つ。(山田利和・尾崎文壽)

 村上さんは1997年4月から同センターで勤務していた。判決では、同センターについて、「循環器疾病に対する高度の専門的医療・調査・研究を担っている。ここに勤務する医師や看護師は日夜、先端的な医療、新しい医療技術の開発などに専心しており、求められる業務の水準も自ずと高度であり、身体的負担や精神的緊張の程度も大きい」と指摘。その上で、村上さんが担当していた脳神経外科病棟の業務を挙げ、「主に脳血管外科の手術待機患者や回復期の患者が入院しており、外来や一般病棟に比べると、勤務内容の負担が高く、恒常的に時間外勤務をせざるを得ない状況だった」ことを重視した。

 看護労働の質的な過重性に関しては、変則的な夜勤や交代制勤務の問題を取り上げ、「勤務シフトの変更度合い、一つひとつの勤務間隔、深夜勤務の頻度などの観点から検討し、評価すべき」と、時間の長さだけでは測れない労働の過重性に言及している。こうした観点に基づき、村上さんがこなしていた日勤から深夜勤、準夜勤から日勤のシフト間隔が5時間程度しかなかったことを重視し、「勤務間隔の全部を睡眠に当てたとしても、最適な睡眠時間を確保することは不可能。通勤や家事に要する時間を考慮すると、確保できる睡眠時間は3、4時間程度に過ぎず、村上さんが疲労回復のための十分な睡眠を取れなかった」として、短い間隔での勤務や恒常的な残業など、労働の質にかかわる過重性を総合的に判断する必要性を強調した。

 関西大教授で労働問題に多数の著書がある森岡孝二さんが厚生労働省の調査を基にまとめた「過労死・過労自殺などの労災認定状況」によると、例えば、脳・心臓疾患での死亡が1999年の48人から2005年には157人に急増している。
 過労死が増える労働現場にあって、今回の判決は「発症前1か月間に概ね100時間、または2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性が強いと判断される」とする「過労死認定基準」の“妥当性”を問う内容とも評価できる。

 しかし、看護師不足はなお深刻で、看護職の労働条件の根幹をなす夜勤・交代制勤務について、夜勤体制が3人以上の病院は5割に過ぎず、2人や2人未満の病院もある。
 1965年の人事院の夜勤判定から40年以上が経過しているにもかかわらず、いまだに「月8日以内夜勤」は実現しておらず、夜勤が月に9日以上の病院が2割を超えている。

 入院日数の短縮化や医療安全対策、医療・看護内容の高度化で、看護の現場の忙しさが増している。夜勤・交代制の不規則な勤務でありながら、仕事が終わらず数時間の残業が常態化し、疲れ果てて燃え尽き離職していく看護師も少なくない。過密な業務と少ない人員体制では、患者の命と安全の確保にも否定的な影響を与える。

 昨年7月、月8日以内の夜勤、勤務間隔の12時間以上確保、夜勤後の時間外労働の禁止などを求める「看護職員確保法」の改正を求める請願が参院で採択された。しかし、いまだに実現していない。
今回の判決も踏まえ、看護師が健康で安心して働き続けられる職場をつくることに、国など関係機関が全力で取り組むことが求められている。

更新:2008/10/30 16:56   キャリアブレイン

公開:2008年10月31日   カテゴリー: