【08.02.14】病院勤務医の負担軽減策に約1,500億円を充当

「病院勤務医の待遇改善を図るためには、より多くの医療費が必要」

【掲載】2008/02/14 08:36 キャリアブレイン

「事務局は非常に巧みで、スムーズに審議が進んできた」――。2008年度の診療報酬改定案を厚労相に答申した後、中央社会保険医療協議会の土田武史会長(早稲田大商学部教授)はこのように感想を述べた。昨年10月から週2回のペースで進められてきた審議で、厚生労働省は「医療費抑制」を前面に出さず、「勤務医の負担軽減」で押し通した。年末からは、マスコミなどの関心を「診療所の再診料」に大きく振り向けた。“見事な誘導”とも評価できる今回の改定、残された課題は何か。(新井裕充)

今回の改定では、病院勤務医の負担軽減策に約1,500億円を充てた。

 土田会長は「1500億円という枠の中で対応策を講じたが、これは微々たるもの。少なくとも(改定率を)1%上げてもらえたら、3,000億円を加算できた」と述べ、病院勤務医の待遇改善を図るためには、より多くの医療費が必要であるとした。

 勤務医の負担軽減策について、支払側の松浦稔明委員(香川県坂出市長)は「負担軽減とは消極的だ。むしろ“優遇策”という表現が良い。(診療報酬改定は)勤務医の収入増につながっていないので、開業志向を止めることはできない」と指摘し、病院の増収分を勤務医に配分する仕組みの必要性を改めて主張した。

 これに対して、赤穂市民病院院長の邉見公雄委員(全国公私病院連盟副会長)は「ありがたいお言葉だが、これは中医協ではできない。別のところでやるべきことだろう。(診療報酬の)総合的な点数で評価されたものを病院内でどのように配分していくか、これは病院の中での今後の課題になると思う」と返した。

 勤務医の負担軽減をめぐっては、「明けなし当直で連続勤務」など労働環境の問題を挙げる病院関係者が少なくない。「たらい回し」が問題となっている救急患者の受け入れについて、「以前は過酷な労働環境の中でも受け入れていたが、最近は訴訟リスクがあるのでトラブルになりそうな“危ない患者”は受けない」とこぼす医師もいる。

 このように、診療報酬だけでは解決が難しい「勤務医の負担軽減」という問題に中医協が正面から取り組んだことは高く評価できるが、その陰に置き去りにされた問題の方が深刻かもしれない。

■ 残された課題
 今回の改定で、高齢者の長期入院が多い「療養病棟」の入院基本料は全体的に引き下げられた。
 年明けの審議で、日本医師会の天本宏常任理事が「医療の必要がある患者の行き場所がない」と繰り返し主張し、強く見直しを求めていた「医療区分1・ADL区分3」の点数だけは885点を維持した。しかし、それ以外は14~31点と大きく引き下げられた。

 また、リハビリ日数が伸びると診療報酬が下がる「逓減制」が廃止されて点数が一本化される疾患別リハビリテーション料は、「点数を引き下げて一本化」という結果になった。例えば、「心大血管」のリハビリテーション料(I)は200点、「脳血管疾患等」(I)は235点、「運動器」(I)と「呼吸器」(I)はともに170点となった。

 このほか、高齢者にとって深刻と考えられる改定もあまり議論されていない。重度の意識障害者などが入院する「特殊疾患療養病棟入院料」と、「障害者施設等入院基本料」の算定要件が変更され、これらの病棟の対象となる患者の中から、脳卒中の後遺症患者や認知症の患者が除かれる。半年間の経過措置はあるものの、「10月以降、脳卒中の重い後遺症がある患者はどこに行けばいいのか」と指摘する病院関係者もいる。
 半年後に噴出するかもしれない「残された課題」がここにある。

 今回の改定について、土田会長は「前回ほど激変的な改定ではなかったが、内容は前回に劣らない大きな改定をした」と評価した。その上で、大きな改定部分として、(1)外来管理加算の要件見直し、(2)診療所と病院の機能分化と連携、(3)高齢社会への対応――の3点を挙げた。

 このうち、高齢社会への対応については、「リハビリ対策、認知症、超急性期の脳卒中加算など、高齢社会で脳卒中などの障害が増えてくることに対して、ある程度思い切ったきめ細かな対応策を取れた。表向きは診療所の再診料が大きなニュースになったが、内容的にはそれなりの改定を行うことができた」と総括した。
 また、土田会長は「残された課題」として、▽初・再診料の抜本的な見直し、▽病院勤務医の負担軽減――の2つを挙げた。
 しかし、本当にそれだけだろうか、疑問は残る。

公開:2008年2月19日   カテゴリー: