【08.02.28】【見解】2008/02/20 2008年度診療報酬改定について

今回のプラス改定を、そうした路線転換の第一歩~引き続き運動を強化~

【見解】 2008年度診療報酬改定について

                        2008年2月20日   
                        日本医労連中央執行委員会
 

1. 中央社会保険医療協議会は2月13日、2008年度診療報酬改訂の内容を確認し、舛添厚生労働大臣に答申しました。医師や看護師等の深刻な不足と過酷な労働実態、産科・小児科や救急医療をはじめとした地域医療の危機が、いま大きな社会問題になっていますが、改定内容をみると、そうした深刻な実態の打開にはとうてい届かない改定といわざるを得ません。13日の総会では、土田武史会長が「(医科0.42%は)勤務医の負担軽減に資するには微々たるもの。もっと医療費の引き上げが望ましかった。せめて1%上げてもらえれば……」と感想を述べましたが、政府・与党が社会保障費の抑制方針を変えず、改定率を0.38%という小幅に止めたことに問題の根源があることは明らかです。

2. 同時に、財界や財務省のマイナス改定圧力を跳ね返し、8年ぶりのプラス改定となったことは、私たちの運動と地域医療の充実を求める国民世論の一定の反映ということでもあります。今回は小幅に止まりましたが、後期高齢者医療制度や障害者の応益負担などの問題に象徴されるように、社会保障費の引き上げが緊急課題となり、国民各層の運動が強まっています。今回のプラス改定を、そうした路線転換の第一歩としていくために、日本医労連は引き続き運動を強化していくものです。

3. 今回の改定論議ではプラス改定が必要な根拠として、人勧における人件費0.7%アップが取り上げられ、審議報告にも明記されました。中医協の論議の中では、「人に対する評価を明確にしてこなかったことが、今日の医師・看護師不足を招いている」などという指摘もありましたが、診療報酬上で人への評価を明確化し、いのちと安全をまもる仕事内容にふさわしい処遇と増員を実現していくことがいっそう重要になっています。日本医労連はその実現のため、引き続き全力を尽くします。

4. 今回の改定では、「産科や小児科をはじめとする病院勤務医の負担軽減」が「緊急課題」として大きく位置づけられました。しかし、それらの改定内容も、ハイリスク分娩などの部分的な対策に止まるとか、医療クラークに対する評価の新設や再編された入院時医学管理加算などにみられるように、算定要件で限定され、大病院など一部にしか波及しない内容が多くを占めています。小児入院医療管理料は、小児科常勤医師20名以上などの要件を満たす少数の病院だけが引き上げられ、既存の点数が据え置かれたことや、救命救急入院料が入院3日以内のみ引き上げられ、4~7日は逆に引き下げられたことは、勤務医対策も限定的なものに止まったということを証明するものです。

5. 日本医労連は2008年度改定に向けて、疲弊し崩壊しつつある地域医療の建てなおしのためには、入院料や初診料・再診料などの基本的な診療料全体を引き上げることが必要だと強く主張し運動してきましたが、残念ながら、そうした改定にはなりませんでした。なお、10対1入院基本料の引き上げが、改定論議の最終版で決断され、31点アップとなったことは一定評価できますが、13対1、15対1の点数据え置き等も含め、不十分といわざるを得ません。国会ではこれから、来年度予算案の審議が本格化します。与党や政府内からも、社会保障費の自然増2,200億円圧縮方針の見直しを求める声が強まっていますが、予算案を見直し・組み替えて、社会保障費の増額や格差・貧困対策の充実などに振り向け、診療報酬の再改定をおこなうよう求めるものです。

6. 7対1入院基本料への「重症度・看護必要度」基準の導入について、日本医労連は断固反対を主張して運動し、評価基準をいくらかは緩めさせ、1,555点の点数引き下げは阻止しましたが、「重症度・看護必要度」基準の導入を阻止するまでには至りませんでした。日本医労連がおこなった「7対1緊急サンプリング調査」の中間集計でも明らかなように、診療科などで得点に大きな較差が生じるなど、その科学的な根拠(評価の妥当性)が薄弱だというだけでなく、今でさえ忙しい現場に新たな負担(必要度の評価作業)を持ち込むものです。日本医労連は、増員の流れに水をさす「重症度・看護必要度」基準の撤回を強く求めるものです。諸外国に比べて圧倒的に少ない日本の人員配置基準の引き上げが本来必要であり、そのためには「増員・労働条件改善によって、離職を防止し、働き続けられる職場づくり」をすすめることです。厚生労働省は看護職員確保対策を抜本的に強化すべきです。

7. 前回の改定では、療養病棟入院基本料への医療区分の導入による評価引き下げが大問題になりました。今回の改定でも、「医療区分1・ADL区分3」以外の評価が再度引き下げられたこと、障害者施設等入院基本料および特殊疾患療養病棟入院基本料の対象患者から脳卒中の後遺症(重度以外)と認知症を除外したことは、療養病床削減方針に沿って、いっそう露骨に老健施設等への転換を迫るものです。日本医労連は、療養病床削減方針と医療区分等による押しつけの撤回を求めるとともに、当面、障害者施設等入院基本料等の対象患者については従前どおりとするよう要求します。

8. 今回の改定率が小幅に止まったもとで、改定内容自身も小幅なものになりました。しかしながら、そうした中でも、回復期リハビリテーション病棟への質の評価の導入や1手術あたりの支払い方式の試行的導入、長期患者の評価引き下げなどにみられるように、医療機関の機能分化の推進や、病院の外来機能の縮小など、従来からの改悪路線を引き継いだ政策誘導的な内容が色濃くなっているのも特徴です。こうした誘導策は止め、おこなわれた医療に対する正当な評価という診療報酬本来のあり方に立ち戻ることを求めます。
                               以  上

公開:2008年2月28日   カテゴリー: